2025年末、日本のBTOパソコン市場を揺るがすニュースが飛び込みました。国内大手メーカーであるマウスコンピューターが、主力モデルを含むほぼ全ての製品の受注を一時停止したのです。公式サイトの「パソコン製品の一部販売再開に関するお知らせ」によれば、その背景には「想定を大きく上回る需要」と、世界的な「深刻なパーツ不足」がありました。
そして2026年1月、待望の販売が順次再開。しかし、再開を待ちわびていたユーザーがカスタマイズ画面で目にしたのは、かつての常識が通用しない「メモリ・SSDカスタマイズ費用の異常高騰」でした。なぜこれほどまでに価格が跳ね上がったのか。そして、2026年という過酷な市場環境で、私たちはどうPCを選ぶべきなのか。
本記事では、最新の価格データと世界情勢を分析し、損をしないための「新・購入戦略」を徹底解説します。
目次
1. 実例検証:メモリ16GB追加に「6.2万円」という異次元の衝撃
販売が再開された製品の構成画面を確認すると、ベースモデルの価格こそ維持されているものの、実用的なスペックへ引き上げるための「追加オプション費用」が、もはや「もう一台パソコンが買える」ほどの領域に達しています。これは単なる値上げではなく、PC市場の構造そのものが変容したことを示唆しています。
最新モデルのカスタマイズ料金を解剖する
最新のRyzenとRTX 50シリーズを搭載した注目モデル、NEXTGEAR J6-A7G60WT-B のカスタマイズ料金は、まさに現在の市場の異常さを象徴しています。
このモデルは最新のDDR5メモリを採用していますが、標準の16GBから32GBへアップグレードしようとすると、追加費用は税別 62,000円。数年前であれば、1万円前後で可能だったこの増設が、今や高性能なスマートフォン1台分に相当する価格となっています。1GBあたりの単価に換算すると約3,875円(税別)となり、これは一般的な小売パーツ価格の2倍以上の設定です。
一方で、Coreプロセッサーを搭載したスタンダード機 mouse A5-I7U01BK-A は、一世代前のDDR4メモリを採用しています。こちらの16GBから32GBへの変更費用は税別 36,000円。DDR5に比べれば2.6万円も安価に設定されていますが、これでもかつての「1万円以下」で増設できた時代を知るユーザーからすれば、言葉を失うほどの高騰と言わざるを得ません。
2. なぜここまで高い?「メモリ・パニック2026」の元凶
この異常事態は、単なるインフレの枠を超え、世界的なデジタルインフラの構造変化によって引き起こされています。その背景には主に3つの大きな要因が複雑に絡み合っています。
① AIサーバー需要による「一般向けメモリ」の生産ライン強奪
現在、SamsungやSK Hynixといった巨大半導体メーカーは、生成AIの学習に不可欠な超高性能メモリ「HBM(高帯域幅メモリ)」の生産に全資源を注ぎ込んでいます。HBMは利益率が極めて高く、メーカーにとっては最優先の「ドル箱」商品です。しかし、HBMの製造には通常のメモリ(DRAM)よりも遥かに複雑な工程が必要で、既存の生産能力の多くを占有してしまいます。その結果、私たちが使う一般PC用のDDR5メモリの生産が後回しにされ、世界的な品薄と高騰を招いているのです。
② Windows 10サポート終了に伴う記録的な「特需」
2025年10月のOSサポート終了に向け、日本国内では企業・個人を問わずかつてない規模のPC買い替えが発生しました。この巨大な駆け込み需要がメーカー側の部材在庫を一気に食い潰しました。2026年に入った今もその「残響」は続いており、特に法人向けの安定供給を優先する煽りを受けて、個人向けカスタマイズ用パーツの価格が押し上げられています。
③ 円安と物流コストの二重苦
ドル建てで取引されるパーツ価格に、長引く円安が追い打ちをかけています。さらに、国内への輸送コストや人件費の上昇が、マウスコンピューターのようなBTOメーカーの採算を限界まで圧迫しています。部材を「確保するだけでプレミアム料金が発生する」今の時代、メーカーはカスタマイズ料金を上げざるを得ない状況にあります。
3. 国内生産ブランド「マウスコンピューター」が直面するジレンマ
マウスコンピューターが「6.2万円」という強気の価格を提示する背景には、「飯山生産(長野県飯山市)」の品質維持というブランドのアイデンティティがあります。
海外メーカーと異なり、同社は国内工場での徹底した動作検証を行っています。パニック相場の中では品質に不安のある格安パーツを市場から拾ってくるわけにはいかず、確実に動作する高品質な部材を高値で先行確保せざるを得ません。この「部材確保コスト」と「24時間365日の国内サポート維持費」がカスタマイズ料金に転嫁されているのです。また、標準構成(16GB)の部材を一人でも多くのユーザーに回すため、過剰なカスタマイズを抑制する「在庫調整」の意味合いも含まれていると考えられます。
4. 徹底比較:DDR4 vs DDR5 どちらを選ぶべきか?
現在、購入の大きな分かれ目となるのが「メモリ規格」の選択です。DDR5は最新CPUに必須の規格ですが、DDR4モデルには依然として強力なコストメリットが存在します。
- DDR5のメリット: 圧倒的な帯域幅。最新ゲームや4K動画編集、生成AIのローカル実行など、高負荷な作業で真価を発揮する。将来的にパーツを使い回す際も主流となる規格。
- DDR4のメリット: とにかく「安価」であること。 事務作業やWeb閲覧、一般的な動画視聴ではDDR5との差を体感しにくく、増設コストをDDR5比で約4割もカットできる。
最新のベンチマーク数値を競うのでなければ、DDR4モデルを選択することは、2026年現在で最も合理的な「予算防衛策」と言えるでしょう。
5. セルフ交換の罠:市場価格との「3万円の差」と保証の天秤
「自分でパーツを買って交換すれば安上がりではないか」という疑問について、最新の市場データで検証します。ここには驚くべき価格差が存在します。
【市場価格との比較(2026年1月時点)】
・DDR5 (32GB 1枚): 約30,000円 = メーカー比 3.2万円安い
・DDR4 (16GB 1枚): 約9,000円 = メーカー比 2.6万円安い
一見、セルフ交換はコスト面で圧倒的ですが、マウスコンピューターの製品でこれを行うには、以下の代償を覚悟しなければなりません。
- 保証の喪失: 内部を開封した形跡があるだけで、標準の「3年間無償保証」が受けられなくなるリスクがあります。15万円以上の本体に対する保証を3万円のために捨てるべきか、慎重な判断が求められます。
- 物理的な破損リスク: 近年の薄型ノートは底面カバーが非常にタイトに噛み合っており、開封時にツメを折ったり、基板を静電気でショートさせる事故が初心者を中心に多発しています。
- 相性問題の自己解決: 特にDDR5は電圧管理がシビアで、単体購入したメモリが認識されない等のトラブルが発生しても、全て自力で解決する必要があります。
6. 結論:2026年を賢く生き抜くための「新・購入戦略」
もはや「待てば安くなる」常識は通用しません。今、後悔しないための戦略は以下の3点に集約されます。
- 「標準構成」をそのまま買う: メーカーが部材を大量確保している「16GBモデル」などは、最も価格設定が安定しています。一般的な用途なら、標準構成で購入するのが最強のコスパです。
- 上位モデルとの「逆転現象」をチェック: 16GBモデルをカスタマイズするより、最初から32GB搭載された「プレミアムモデル」を買う方が、総額で数万円安くなるケースがあります。必ず「カートの最終金額」で比較してください。
- 「時間差アップグレード」の検討: 最初は標準の16GBで購入し、メーカー保証が切れる数年後、メモリ価格が落ち着いたタイミングで自分で増設する。これがリスクとコストを両立させる最も現実的な立ち回りです。
PCの導入を躊躇して生産性を落とす「機会損失」は、数万円の差額よりも深刻です。納得できるモデルが見つかったら、公式の販売再開告知ページをチェックし、早めに確保することをお勧めします。現在の異常な市場環境において、「在庫がある」こと自体が最大のチャンスなのです。
